社員の家族は、社長の部下でも取引先でもありません。手紙の言葉に迷うのは、この間柄の相手に書く型が、ふだんの仕事の文書に無いからです。部下に向ける「ご苦労さま」も、取引先に向ける「今後ともよろしくお願いいたします」も、家族あてには少しずれます。書くのは、日ごろのお礼と、会社で見ている働きぶりの事実の 2 つです。

文化審議会の「敬語の指針」(2007 年)は、上司への言葉の問いを取り上げています。時間外に仕事を教えてくれた上司に「どうも御苦労様でした」と言ったら、笑われたという問いです。答えの説明は「ねぎらいは、上位者から下位者に向けたものとなる」で、だから目上の人には使わないほうがよい、という流れです。社員の家族は上司ではありませんが、会社の目下にいる人でもありません。ねぎらうより、お礼を言う形が合います。

書くのは、お礼と、会社で見ている働きぶりの事実

家族が本人の職場を見る機会は、あまりありません。そこで、社長が見ている事実を 1 つ書きます。「新しい現場の段取りを任せています」「後輩に仕事を教えてくれています」のような一文です。事実が 1 つ入ると、お礼がどの会社でも出せる定型の言葉でなくなります。

働きぶりは、評価より事実で書きます。「優秀です」「よく頑張っています」は社長の評価で、家族にはどこを見てそう言っているのかが分かりません。「任せている」「教えてくれている」なら、家族が本人に「そうなの」と聞き返せます。

長さは短くてかまいません。下の文例は、相手を決めない「〇〇さんには、いつもお世話になっています」の形にしています。

入社・誕生日・年末・育休明けの一文

下の表は、手紙の中心に置く一文の例です。前後に季節のあいさつや結びを足しても、手紙の中身はこの一文になります。〇〇には社員の名前を入れてください。

場面一文の文例気をつけること
入社〇〇さんに入社していただき、ありがとうございます。ご家族の皆様にも、ひと言お礼を申し上げます。働きぶりはまだ書けません。迎える側のお礼にとどめます
誕生日お誕生日おめでとうございます。〇〇さんには、いつもお世話になっています。社員本人の誕生日に送るなら「〇〇さんのお誕生日に」と、祝う相手を本人に
年末今年も〇〇さんには、新しい現場の段取りを任せてきました。一年間ありがとうございました。売上や業績の数字は書かず、任せた仕事を 1 つだけ
育休明け〇〇さんが職場に戻り、皆で迎えています。困ったときは会社にも相談するよう、本人に伝えています。「早く元の調子で」のような、働き方の注文は入れません

年末の文の「新しい現場の段取り」は例です。社員ごとに、社長が実際に任せている仕事に置き換えてください。置き換える仕事が思いつかない社員には、年末の文は出さず、誕生日の文だけにしておくほうが無理がありません。

業績の話、お願い、家族への注文は手紙に入れない

社長が書きたくなるのに、入れないほうがよいものが 3 つあります。

1 つ目は業績の話です。「おかげさまで今期は好調でした」は、社長にとってはお礼の続きです。けれども家族は会社の数字を確かめる立場にありません。よい数字は「忙しさはまだ続く」、悪い数字は「この会社で大丈夫か」と読める余地が残ります。

2 つ目はお願いです。「今後ともご家族のご理解とご協力をお願いいたします」は、取引先への手紙の結びの形です。家族は会社と約束をした相手ではないので、協力を頼まれても返す手立てがありません。残業や休日の出勤を、先に了解させる文にも読めます。

3 つ目は家族への注文です。「〇〇さんの健康管理をよろしくお願いします」も「しっかり支えてあげてください」も、同じ形をしています。本人の体調や働き方を、家族の役目にする文です。

「敬語の指針」には、敬語と中身の関係を述べた一文があります。「失礼な内容については、敬語を使ったからといって、その失礼さが消えるわけではない」。お願いと注文は、敬語にしても家族が何を求められたかは変わりません。迷ったら、その一文を消しても手紙が成り立つかどうかで決めてください。

「いつも明るい奥様に支えられて」のような、家族その人を褒める文も入れません。同じ指針は、相手の持ち物や容姿を褒めることも取り上げています。そこには「目上の人や特に親しくない人を褒めるのは、なれなれしいと思われることにもなる」とあります。家族の人柄を評する文も、同じ理由で外します。褒めてよいのは社員の働きぶりまで、と覚えておくと迷いません。

長い手紙は節目に、毎年の一言は短い決まった文で

社長の手紙と会社のカードを、書く人・長さ・届くとき・続け方の 4 つで比べた図
社長の手紙は節目に 1 回、会社のカードは記念日ごとに毎年

社長が自分で書く手紙は、書く人が社長一人です。決算や繁忙の時期と重なった年は、書く時間が取れずに止まりがちです。

花がかりは、2 つに分けることを勧めます。社長が書く手紙は、入社や勤続の区切りのような節目に出す。毎年の一言は短い決まった文にして、毎年同じ時期に届く形にする。毎年の一言は、1 年同じ文でもかまいません。

出す前に、本人に一声かける

家族あての手紙は、社員本人の手を通らずに家に届きます。出す前に、本人に 2 つ聞いてください。家族に会社から手紙を出してよいか。出すなら誰あてにするか。

家族と離れて暮らす社員も、一人で暮らす社員もいます。家で仕事の話をしていない社員にとっては、会社からの手紙が、家族への説明を一つ増やすことにもなります。全員に同じように出す決まりにせず、断った社員が気まずくならないよう「出さない」を選べる形にしておきます。

手紙を受け取った家族がどう感じるかを、花がかりは調べていません。この記事の文例は、入れないほうがよいことを避けて書いた形で、受け取った人の反応を確かめたものではありません。

家族の名前や誕生日を会社が聞くときの考え方は、家族の誕生日を会社がどこまで聞くかの記事にあります。

毎年の一言を、会社の名前で届ける形

花がかりのメッセージカードは、名刺サイズで、表だけに書きます。会社の文(40 字まで)と、その下に会社名が入り、社員や家族の記念日の前に、花に添えて自宅か会社へ届きます。文は記念日の種類ごとに 1 つで、1 年同じ文で届くので、総務の方が一人ずつ書き分けることはありません。

表の文には社員の名前や任せた仕事が入るので、カードには使えません。カードには、誰に届いても通るお礼の一文を選びます。働きぶりの事実は節目の手紙に回し、カードは毎年のお礼だけを受け持ちます。文の決め方はメッセージカードの文の記事にあります。

社員を一人思い浮かべて、その人の家族に伝えたい一文を、上の表の形で 1 つ書いてみてください。お礼と、その人に任せている仕事を 1 つ入れれば、一文になります。